実家の相続は「代償分割」にするか「売却」か?

相続する遺産の中に不動産が含まれていると、いろいろと複雑な問題が絡んできます。たとえば自分が住んでいる家が相続財産だとすれば、簡単に売却をするわけにもいきません。この記事では、実家が相続財産となったときの分割方法について解説します。

不動産の分割方法は4種類ある

遺産分割協議において、相続財産が自宅のみだった場合の分割方法を想定してみましょう。この場合、「現物分割」「換価分割」「代償分割」「共有」の4種類の方法があります。それぞれどのような分割方法なのか解説します。

現物分割とは

現物分割とは、 土地を分筆して分ける方法です。しかし一戸建ての住宅が対象物件の場合、建物を維持しながら分筆するのは、とても不合理な分け方になるので、実家を分割する方法としてはふさわしくありません。

代償分割

代償分割とは、特定の相続人が土地や家を相続することを前提に、差額を現金やほかの財産の譲渡によって埋め合わせをする方法です。不動産価格の査定などで慎重な判断を要しますが、相続する家に住み続けられるという利点があります。

換価分割(売却)

換価分割とは、相続した不動産を売却して、売却代金を相続人で分割します。最も平等に分割できる方法ですから、実家が空き家になるケースであれば適した方法だといえます。しかし、その家に跡取り息子が住んでいたのであれば、次に住む家を探す必要があるため、課題が残ります。

共有

共有は不動産を共有名義にする方法です。たとえば3人兄弟であれば、所有区分を3分の1ずつに分けます。しかし、この方法は、将来さらに子孫に分かれていくと、ますます所有者が増えることになるので、賢明な方法とはいえません。

他の相続方法では話がまとまらず、苦肉の策として選ばざるを得ないとしても、次の世代にさらに騒動を持ち越すことになるので、極力避けるべき方法です。

代償分割が適しているケース

代償分割は、自宅や農地などの不動産で、分割すると本来の機能が失われてしまう場合の遺産分割に適しています。

ただし、これを実行するためには不動産の評価額を共同相続人と共有したうえで、代償金の支払額や方法について合意する必要があります。

また不動産を現物で相続する人は、他の相続人へ支払う現金が必要になります。状況によっては、10か月後に納める相続税の現金も必要です。つまり代償分割をしようと思えば、相当額の現金か不動産などの資産が必要だということです。

代償分割の流れ

代償分割を選択した場合、まず遺産分割協議の場で、代償分割をするという方針を決定します。

代償分割をすることが決定したら、不動産鑑定士に不動産評価の依頼をします。不動産は預金や現金のように定まった価値がないので、相続人全員が不動産の価額を共有する必要があります。

代償分割して現金を他の相続人に支払うといった内容を遺産分割協議書に明記します。この協議書がないと、現金を受け取った相続人は贈与税の対象になってしまうからです。

話がすべてまとまれば、不動産の相続人が、他の相続人へ現金を支払います。その後、不動産登記の名義変更をして相続税の申告と納付をするという流れになります。

代償金の金額を決める

代償金の金額を決めるためには、まず相続不動産の評価額を全相続人で共有する必要があります。

一般的な不動産の相続は相続税評価額を基本にしますが、代償金を実勢価格(時価)を基本にして決めるのであれば、不動産鑑定士に依頼することになります。

相続税評価額は、時価の80%程度とされているので、どちらの価額を基本にして決めるのかによって、代償金は大きく異なってきます。代償金を支払う側の立場であれば支払金額が低く収まる相続税評価額をベースに計算したいところです。反対に現金を受け取る側であれば、より高額金が受け取れる時価で分割してほしいと考えるのが、一般的な人の心理です。

こうしたルールは法律で決められていないため、不動産価格の根拠設定は、揉める原因のひとつになります。一般的には時価で分割する方が多数です。

代償分割時の相続税計算

代償金によって相続税がどうなるのかを解説していきましょう。代償分割した財産の課税価格は、分割対象になった不動産評価額の根拠によって異なります。

たとえば相続人が兄妹の2人で、実勢価格(時価)5,000万円・相続税評価額4,000万円の不動産を代償分割で相続したケースで想定しましょう。まず、兄が不動産を相続して、妹に2,000万円の代償財産を支払うことにします。

この金額が、相続税評価額を基に決めたのであれば、相続税の課税価格は、兄と妹それぞれが2,000万円になります。

ところが、これが実勢価格(時価)5,000万円を基に協議して、代償金を2,000万円に決めたのであれば、相続税は少し複雑な事情になります。

この場合、受け取った額に「相続税評価額の時価に対する割合」を乗じることになります。数式と結果は次のとおりです。

  • 兄の課税価格……4,000万円 - {2,000万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円)} = 2,400万円
  • 妹の課税価格……2,000万円 × (4,000万円 ÷ 5,000万円) = 1,600万円

これを妹の視点で考えると、5,000万円の資産であるにも関わらず、2,000万円しか受け取っていないので、実質4割の財産のみを相続している状態となります。相続税価額の4,000万円の4割が1,600万円なので、上記の計算結果と同額です。つまりこの場合は、実質何割を相続したのかということで課税価格が決まります。

どの価格を基に代償分割をしたのかということを共有し、その場合相続税がいくらになるのかを把握していないと、相続人同士で不信感が生まれかねません。

時価を基本にして、人数で平等に割って代償金を決める方法が最もトラブルが少ない方法です。ただし不動産の相続人は、それだけの現金を保有している必要があるので、現実には課題があります。

代償分割で所得税が発生することがある

手持ちのお金で代償金が払えない場合、分割で支払うことも可能です。しかし最後まで支払われる保証がないため、分割払いで合意することはあまりありません。

現金が不足している場合、自宅以外に保有する土地を譲渡するという方法もあります。しかし、所得税が課せられるという問題が発生します。

たとえば兄が、かつて500万円で購入して、現在の時価が2,000万円の土地を所有していたとします。

この土地を代償分割の代償財産2,000万円として妹に無償で譲渡した場合、兄に譲渡益が1,500万円あったとみなされ、譲渡所得税が課税されるのです。

兄の立場としては、実際に利益があったわけでもないので納得のいかないところです。しかし、税務署としては、代償分割支払金という「負債」を解消するための資金を得たと考えるので、所得があったと見なされてしまうのです。

遺産分割協議書に記載がないと贈与税がかかる

代償分割の代償金の支払い際しては、遺産分割書を作成して、金銭の譲渡が代償分割によるものだと明記することが重要です。この文言が存在しないまま、支払い金を渡してしまうと、金銭の授受は単なる贈与とみなされ、贈与税が課税されることになる可能性があります。

相続税の支払いが困難であれば買取専門の不動産会社に売却

代償分割する資金や相続税を納める資金がない場合、相続税の対象となる不動産を売却することになります。しかし、相続税は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に納付しなければいけないため、一般の売却方法では、納付期限までに現金化できない可能性も否定できません。また自分の思惑通りに売却できる保証はどこにもありません。

こうしたケースでは、買取専門の不動産会社に買い取ってもらう方法が有効です。買取専門の会社は、買取額を提示するので、いくらで売れるのかがすぐに明確になります。その上、契約後速やかに現金が支払われるので、相続税の資金として活用することも可能です。

まとめ

親の住んでいた住宅を相続する場合、有効な方法としては「代償分割」か「売却による現金化」です。しかし代償分割は他の相続人に支払う現金が必要です。また売却の場合、地方都市ではなかなか売却できなくて、空き家問題が社会問題と化しています。

スムーズな売却で、相続もすっきり解決したいのであれば、買取専門の会社に相談されることをお勧めします。